【肩こりとは?】
はじめに
「肩が重い」「首から背中にかけてだるい」——こうした不快感を覚えたことがある方は多いと思います。日本人に非常に多い訴えである”肩こり”。しかし、実際にはその正体を正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、整形外科医の視点から、まずは一般の方にも分かりやすく、肩こりの病態について詳しく解説していきます。
【肩こりの一般的な理解】
肩こりって何?
肩こりとは、首・肩・背中にかけての筋肉が硬くなり、不快感や痛み、重だるさ、こわばりといった症状を感じる状態です。特に、僧帽筋(そうぼうきん)や肩甲挙筋(けんこうきょきん)といった、肩甲骨や首を支える筋肉が関与します。

日常的な症状であるため軽視されがちですが、ひどくなると頭痛や吐き気、集中力の低下、腕のしびれなど、生活に支障をきたす症状を伴うこともあります。
なぜ肩に症状が出やすい?
人間の頭の重さは約4〜6kgと言われています。これを支えているのが首〜肩まわりの筋肉です。特に長時間のスマホ・パソコン作業、前かがみ姿勢が続くと、これらの筋肉が常に緊張し、疲労がたまりやすくなります。
また、デスクワークなどで腕を前に出して作業することが多い現代人は、肩甲骨が開き、猫背・巻き肩姿勢になりやすくなります。この姿勢が肩の筋肉に過度な負担をかけ、慢性的なこりの原因となります。
【肩こりの専門的な病態】
ここからは、少し専門的な視点から肩こりのメカニズムを掘り下げていきます。
1. 筋疲労と持続的収縮
肩こりの主因のひとつは、筋肉の持続的な収縮と血行不良です。長時間同じ姿勢が続くと、僧帽筋や肩甲挙筋などの筋肉は休む暇がなくなり、乳酸などの代謝産物が蓄積します。これにより筋線維内のpHが低下し、痛覚受容器が刺激されて「痛み」や「重だるさ」を感じるようになります。
2. トリガーポイントの形成
僧帽筋や肩甲挙筋、肩周囲の深層筋には、筋硬結(いわゆる”しこり”)が形成されることがあります。これを「トリガーポイント」と呼びます。トリガーポイントは、局所の圧痛だけでなく、関連痛(他の部位に放散する痛み)や自律神経症状を引き起こす原因にもなります。
3. 筋膜の滑走不全
筋肉を包んでいる筋膜が滑走性を失うことでも、肩こりが生じやすくなります。筋膜の癒着や可動性低下により、筋肉の動きが妨げられ、過剰な負荷が特定部位に集中し、局所的な緊張や痛みを引き起こします。
4. 姿勢異常によるアライメント破綻
ストレートネックや猫背、巻き肩といった姿勢異常は、頚椎〜胸椎の生理的湾曲を崩し、筋肉や靭帯に不均一なストレスを与えます。特に頚椎の前弯(カーブ)が失われると、頭部の重心が前方に偏り、僧帽筋・肩甲挙筋の筋緊張が持続します。

5. 自律神経との関連
慢性的な肩こりは、自律神経系との関係も深く、交感神経の過緊張状態が持続することで、末梢の血流低下や筋収縮の持続が助長されます。これは「ストレス性肩こり」と呼ばれ、心理的要因によっても症状が悪化することを意味します。
【肩こりを放置すると?】
肩こりを軽い症状として放置していると、次のような状態に進行することがあります:
- 緊張型頭痛、頚性頭痛
- 頚椎症性神経根症(手のしびれ、脱力)
- 肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)
- 睡眠障害、集中力低下、抑うつ状態
筋疲労だけではなく、神経・血流・関節運動制限などの複合的な機能障害へと発展するため、早めの対応と予防が重要です。
【まとめ】
肩こりは、単なる筋肉の疲れではなく、
- 筋疲労
- 筋膜の硬化
- 姿勢異常
- 自律神経の影響 といった要因が重なった、複雑な病態です。
早めの姿勢改善・セルフストレッチ・適切な休息によって、筋肉と神経のバランスを保つことが、症状の予防と改善に直結します。
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